「働き方改革」について
1.【働き方改革】のスケジュール・工程表
※ここでいう「中小企業」とは、資本金3億円(小売・サービス業は5千万円、卸売業は1億円)以下、または労働者300人(小売業は50人、卸売・サービス業は100人)以下の企業をいいます。
中小企業 | 大企業 | |
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平成31年 4月1日 |
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令和2年 4月1日 |
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令和3年 4月1日 |
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令和6年 4月1日 |
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2.【働き方改革】とは
「働き方改革」とは、平成28年に政府が打ち出した「ニッポン一億総活躍プラン」によって、「生産性向上」と並んで重要な課題とされたものです。
「働き方改革」の目的は、人口が減少する日本において持続的な経済成長を可能にすることです。
出産・子育て世代の負担を減らし、その分を生産性向上と、女性・高齢者など他の労働力の活用で埋め合わせすることで、少子化を脱しようとするものと考えられます。
3.【働き方改革】関連法成立で義務化されたこと
【働き方改革】関連法成立で、特に注意しなければならない「義務化」事項がいくつかあります。
3-1. 時間外労働の上限規制
(注)ここで言う「時間外労働」とは、労働基準法33条で規定する「災害による臨時の必要がある場合の時間外労働」を含みません。
平成31年4月1日以降、法律上の時間外労働の上限が新たに設定されます。(中小企業は令和2年4月1日から。)
なお、この規定は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めている時間外・休日労働協定(36協定)に対して適用され、平成31年3月31日を含む期間を定めている時間外・休日労働協定(36協定)に対しては、その協定に定める期間の初日から1年間は適用されません。
なお、「時間外労働」とは、原則として、「1日8時間または1週40時間」を超える労働のことで、これを行わせるには、各事業場における労働者の過半数を代表する者(法定の要件があります。詳しくは最寄りの労働基準監督署まで。)との書面による協定(通称「三六協定」)を行い、これを労働基準監督署へ届け出なければなりません。三六協定の書式は、厚生労働省のサイトに掲載されています。
- 時間外労働は、原則として、月45時間までとなります。
- 時間外労働は、原則として、年360時間までとなります。
- 臨時的な特別の事情があって、「特別条項付きの36協定」を締結する場合は、
- 時間外労働は、年720時間まで
- 時間外・休日労働は、月100時間まで
- 2~6か月平均では、月80時間まで
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
- 違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。なお、罰則の対象者は「使用者」です。使用者とは、指揮・命令を行う方で、1名とは限りません。また、法人に対しても罰金が併科されることがあります。
- これらの規制は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めた36協定に対して適用されます。
- 5年間の適用猶予となる事業・業務があります。
- 建設事業…5年後、災害時における復旧及び復興の事業を除き、全面適用されます。
- 自動車運転の業務…5年後、特別条項付き36協定の締結により、(C-i)が年960時間までとなり、(C-ii)(C-iii)(C-iv)は適用されません。
- 医師…5年後、時間外・休日労働が月100時間、年960時間(一部1,860時間)までとなります。
- 鹿児島・沖縄の砂糖製造業…(C-ii)(C-iii)は5年間適用されず、5年後から全面適用されます。
- 適用除外となる業務があります。
- 新技術・新商品等の研究開発業務…適用除外となりますが、1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対して、医師の面接指導が義務付けられました。
- 中小企業とは、「資本金3億円(小売・サービス業は5千万円、卸売業は1億円)以下、または常時使用する労働者数が300人(小売業は50人、卸売・サービス業は100人)以下の企業(企業単位)」をいいます。
- 施行に当たっては経過措置が設けられており、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定に対して上限規制が適用されます。2019年3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。
- 限度時間(月45時間・年360時間)を超える時間外労働を行わせることができるのは、通常予見することのできない業務量の大幅な増加など、臨時的な特別の事情がある場合に限ります。
- 臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合の事由については、できる限り具体的に定めなければなりません。「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」など、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものは認められません。
- (臨時的に必要がある場合の例)・予算、決算業務・ボーナス商戦に伴う業務の繁忙・納期のひっ迫・大規模なクレームへの対応・機械のトラブルへの対応
くわしくは厚生労働省のサイトを参照ください。
3-2. 年次有給休暇の時季指定義務
平成31年4月1日以降(中小企業も同じ)、法律上、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、基準日から1年以内に、年5日分の使用者による時季指定義務が規定されました。→ くわしくはこちら
3-3. 同一労働同一賃金
令和2年4月1日以降、派遣・パート・有期労働者について、正規労働者との間の待遇差に関して、「均等・均衡待遇」や「待遇に関する説明義務」「履行確保措置」等の規定が拡充・新設されました。→ くわしくはこちら
3-4. 労働安全衛生法の一部改正
主なものは次の通り
- 産業医に対する、労働時間等の情報提供義務
- 産業医からの勧告を、尊重する義務
- 産業医からの勧告を、衛生委員会等へ報告する義務
- 産業医等による労働者の健康管理等の適切な実施を図るための必要な措置を講ずる努力義務
- 厚生労働省令で定める労働時間を超える(新技術・新商品等の研究開発業務に従事する)労働者に対する、医師による面接指導を行う義務
- 厚生労働省令で定める方法による、労働時間の状況を把握する義務
タイムカードによる記録、パソコン等の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存する。
- 高度プロフェッショナル労働者の健康管理時間が、厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、医師による面接指導を行う義務
- 産業医の業務内容等を労働者に周知させる義務
4.【働き方改革】関連法成立でしなければならないこと
平成30年6月29日に【働き方改革】関連法が成立し、下記の期限までに、各企業において、しなければならないことが発生しました。
なお、派遣労働者に対する「同一労働同一賃金」については全企業一斉、
パート・有期労働者に対する「同一労働同一賃金」については中小企業が一年遅れ、という違いがあることに注意が必要です。
平成31年4月1日までにしなければならないこと
(すべての企業)
- 就業規則の変更
- 年10日以上付与される年次有給休暇のうち年5日分の時季指定義務(取得日の決定方法等)を規定化(この規定が適用されるのは、平成31年4月1日以後の最初の基準日=付与日からです。)
- 「高度プロフェッショナル制度」を採用する場合には、当該制度に関する事項を規定化
- 「フレックスタイム制」の「清算期間」を1ヶ月以上(3ヶ月以内)に変更する場合には、当該制度に関する事項および賃金の決定・支払方法等についての変更事項があれば規定化
- その他、労働安全衛生法等の改正に伴って変更しなければならなくなった事項があれば当該事項
- 仕事のやり方(出来映え基準や納期・人員配置など)の見直し…「年5日の有給休暇の時季指定義務」や「時間外労働の上限規制」への対応に必要。
(大企業)
- 就業規則・三六(さぶろく)協定の変更…「時間外労働の上限規制」への対応が必要な場合
(中小企業は令和2.4.1までに)
※ここでいう「中小企業」とは、資本金3億円(小売・サービス業は5千万円、卸売業は1億円)以下、または労働者300人(小売業は50人、卸売・サービス業は100人)以下の企業をいいます。
令和2年4月1日までにしなければならないこと
(大企業)
- 派遣・パート・有期労働者についての、同一労働同一賃金の規定の整備…就業規則(賃金規程等)の変更など
- 派遣・パート・有期労働者についての、待遇に関する説明義務に対する準備
(派遣については、大企業・中小問わず令和2.4.1までに
パート・有期に限り、中小企業は令和3.4.1までに)
(中小企業)
- 就業規則・三六(さぶろく)協定の変更…「時間外労働の上限規制」への対応
- 仕事のやり方(出来映え基準や納期・人員配置など)の見直し…「時間外労働の上限規制」への対応に必要。
- 派遣労働者についての、同一労働同一賃金の規定の整備…就業規則(賃金規程等)の変更など
(パート・有期については、令和3.4.1までに) - 派遣労働者についての、待遇に関する説明義務に対する準備
(パート・有期については、令和3.4.1までに)
令和3年4月1日までにしなければならないこと
(中小企業)
- パート・有期労働者についての、同一労働同一賃金の規定の整備…就業規則(賃金規程等)の変更など
(派遣については、令和2.4.1までに) - パート・有期労働者についての、待遇に関する説明義務に対する準備
(派遣については、令和2.4.1までに)
令和6年4月1日までにしなければならないこと
(5年間適用猶予されていた業種)
- 就業規則の変更等
- 「建設事業・自動車運転の業務・医師・鹿児島・沖縄の砂糖製造業」について、時間外労働の上限規制の開始に対応するための人員配置(採用活動等を含む)、業務遂行方法の変更や就業規則の変更等
これらのうち、特に注意が必要な時間がかかりそうな事柄は下記の通り。
- 年5日の有給休暇をどのようにとらせるか
- 従業員数×5日分の仕事をどう処理するか
- 時間外労働の上限規制に対応するために人員配置・作業分担をどうするか
- 正規・非正規間の待遇差に関する説明をどうするか
(うまく説明できない場合は、裁判で「不合理」と判断される危険性が高く、差額賃金の支払い義務が発生する恐れがあります。) - 待遇差を埋めるための新たな賃金制度をどうするか
- 就業規則(賃金規程等)を作成・変更する場合、
従業員の過半数代表者の意見を聴くための十分な期間 - 労使協定(三六協定等)を作成・変更する場合、
従業員の過半数代表者との協議を行うための十分な期間
なお、法律によって正規・非正規間の「不合理な待遇差を解消するため」とはいっても、就業規則(賃金規程)の変更によって正社員の賃金を下げることは、原則としてできません(労働契約法9条)。そのため、非正規の賃金を正社員の水準まで引き上げる必要が出てくる場合があることにも注意が必要です。