過重労働で自殺を考えているような方へのアドバイスです。
【1】辞める
退職する場合、相手の承諾は不要です。
「損害賠償」などと言われても、損害が発生することは通常ありえません。労働者が1人辞めただけで発生するような損害は、労働者が辞めたり病気やけがなどで突然仕事ができなくなったりした場合に備えて予備の人員を確保していなかった企業側に責任があります。労働者がライバル企業に秘密を漏らしたり、会社の資材を壊してしまったりでもしない限り、損害が発生することは通常ありません。何を言われても「弁護士に相談する。」で通し、口頭であっても決して「払います」などと言ってはいけません。後で大変面倒なことになるからです。
法外な金額を言われた場合は、
「労働基準法第5条(使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。)違反の可能性があるため、労働基準監督署に電話する」と言ってみましょう。この規定に違反した場合の罰則は、「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」です。
「賃金の全額(または一部)を支払わない」「賃金の支払いが遅れる」と言われた場合は、「労働基準法第24条違反の可能性があるため、労働基準監督署に電話する」と言います。このときの罰則は、「30万円以下の罰金」です。
正式な退職の時期については、
原則として、退職の意思表示の2週間後(民法627条第1項)、ただし、就業規則で「1か月前」などとされている場合は、合理的な理由無く労働者を不当に長期間拘束するような規定で無い限り、就業規則に従います。詳しくは、最寄りの社会保険労務士や弁護士に相談してみて下さい。
辞めると意思表示してから実際に退職するまでの間はできるだけ休んで下さい。年次有給休暇が無ければ病欠や無断欠勤でもいいでしょう。
自殺を考えなければならないような事態が発生している状況では、会社でさらに突発的な事態が発生した場合に冷静な対処ができない危険性があるからです。もしどうしても会社に出なければならない場合でも、退職日の前日などなるべく最後の方にしましょう。退職届などが必要と言われても、FAXや電子メールなどで代用し、正式なものは郵便でもいいでしょう。万一どうしても出勤しなければならないと思った場合であっても、社会保険労務士や弁護士に相談してから出るかどうか決めるほうがいいでしょう。病気やけがなどで連絡もできずに突然休まなければならない場合もあります。病気などを理由に休めば良いでしょう。
会社が許可すれば彼らに付き添ってもらいましょう。彼らの手配に多少時間がかかってもそうすべきです。いざと言う場合に備えて法律に強い味方がそばにいる方が安心です。企業としても、一度「辞める」と口にした従業員は、もはや企業に対して忠誠心や責任感は期待できませんから、休んでもらった方がありがたいはずです。
万一、企業側の誰かが自宅まで押しかけてきて無理矢理出勤させようとすることがあるかもしれませんが、その場合には、前述の「労働基準法第5条違反」を参考にして下さい。社員寮などで鍵を開けられて無理矢理連れて行かれる恐れがある場合は、ホテルなどに身を隠すことも必要かも知れません。このような場合、法律に疎い家族などのもとに身を寄せても、脅されて企業側の味方にされてしまう恐れもあります。自分の身の安全を確保しなければならないような場合には、まず身の安全、次に法律に詳しい専門家(社会保険労務士や、特に身の危険を感じる場合は弁護士)に相談しましょう。
雇用契約に期間の定めが有る場合(有期雇用契約=原則最長3年、厚生労働大臣が定める高度な専門知識を有する労働者がそれを必要とする業務に就く場合や60才以上の場合は最長5年)は、原則としてその雇用契約期間の終了まで辞めることはできません。
ただし、雇用契約の締結の際に明示された労働条件が守られていない場合は、直ちに辞めることができます(労働基準法第15条第2項)。過重労働で自殺を考えるような場合は、たいてい守られていないものです。素人目にはそう思えない場合でも、専門家の目から見れば守られていないとはっきりわかる場合もあります。自信が無い場合は、社会保険労務士や弁護士に一度相談してみて下さい。
時間外労働が100時間を超えた場合や、事業主や会社の従業員に就業環境を著しく害する言動(パワハラ)をされた場合など、就業の継続が非常に困難となって離職した場合は、雇用保険法の「特定受給資格者」に該当し、自己都合退職ではなく会社都合による解雇同然とみなされ、会社はいろんな助成金が受けられなくなる恐れがあり、労働者は雇用保険の基本手当(失業手当)が直ちに支給されます。
【2】休む
自殺を考えるほどの過重労働を強いられている場合は、一刻も早く、心身を休ませなければなりません。とにかく休んで下さい。スケジュールが詰まってて代わりの人もいないというような場合でも、会社がなんとかするものです。心療内科などを受診して診断書をもらいましょう。
なお、年次有給休暇を取得できない休職期間については原則として無給となってしまいますが、病気やケガが理由で就業できない場合は、1年6ヶ月を限度として、健康保険から「傷病手当金」(労災認定された場合は「休業補償給付」)として、月給の6割~3分の2程度が支給される場合があります。(1年6ヶ月を超えると、各種年金制度から給付が行われる場合があります。)
【3】面接指導を申し出る
時間外・休日労働が月100時間 月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(労働者の疲労蓄積度チェックリスト)労働者の方は、1月以内に「会社に申し出る」ことにより、会社の指定する医師による面接指導を受けられます。(その医師による面接指導を希望しない場合には、他の医師による面接指導を受けてその結果を証明する書面を提出します。)
会社は、面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、1月以内に医師の意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業(22:00~5:00の業務)の回数の減少等の措置(就業上の措置)を講じなければなりません。
なお、会社が持っている時間外・休日労働の時間数のデータが正確でないなどによって面接指導や就業上の措置が受けられないときは、労働基準監督署に相談してみましょう。
また、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者についても、「会社に申し出る」ことにより、面接指導等を実施するよう努めることとされています。面接指導等を実施した場合、会社は上記に準じる措置を講じるよう努めることとされています。
面接指導の対象にならない労働者であって、健康への配慮が必要なものについては、必要な措置を講じるよう努めることとされています。
さらに、ストレスチェックにおいて「面接指導が必要」とされた労働者の場合も、1月以内に「会社に申し出る」ことにより、1月以内に医師による面接指導が受けられます。労働者が面接指導を受けた場合、会社は1月以内に面接指導を実施した医師から就業上の措置に関する意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の就業上の措置を講じなければなりません。
【4】自発的健康診断の結果を提出する
過去6ヶ月平均して月4回以上深夜業(22:00~5:00の業務)を行っている常勤労働者の方は、「自発的健康診断」(労働安全衛生法第66条の2)を受診し、「異常の所見がある」と診断された場合には、3月以内にその結果を書面で会社に提出することによって、会社は労働者の健康を保持するために必要な措置について、3月以内に医師等の意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業(22:00~5:00の業務)の回数の減少等の措置を講じなければなりません。
【5】嫌な人になる
過重労働を強いられる職場では、慢性的な人手不足になっていると考えられます。そのような職場では、仕事の押し付け合いが横行している可能性があります。例えば社内宴会の幹事など、業績に無関係の用事は誰にとっても余計な負担です。笑顔一つで快く引き受ける「いい人」でいることは、そのような職場では自殺行為です。「嫌な人になる」ことも選択肢の一つです。