この記事は、2019-05-23に更新されたものです。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは
「同一労働同一賃金」の導入は、同一企業等における、正規労働者と非正規労働者(パート・有期・派遣)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
同一労働同一賃金に関する状況
不合理な待遇差 | 均等待遇 | 説明義務 | |
パート | 禁止 | 一部義務 | 一部あり |
---|---|---|---|
有期 | 禁止 | - | - |
派遣 | - | - | 一部あり |
不合理な待遇差 | 均等待遇 | 説明義務 | |
パート | 禁止 | 一部義務 | 拡充 |
---|---|---|---|
有期 | 禁止 | 一部義務 | 新設 |
派遣 | 禁止 | 一部義務 | 拡充 |
働き方改革関連法
パート・有期・派遣労働者と正規労働者との待遇差に関して、かなり大がかりな法改正が行われました。(施行日:令和2年4月1日、(中小企業におけるパート・有期労働者については、1年猶予))
均衡待遇(パート・有期)
パート・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規労働者との不合理な待遇の禁止に関し、
「個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき」旨を規定。
「基本給・賞与・退職金・諸手当(通勤手当・時間外手当・皆勤手当…)・福利厚生など」のそれぞれの待遇ごとに、
「個々の待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮」して、
「待遇に差を設けるか設けないか、設ける場合にはどのような差が合理的と認められるか」
を判断して待遇を決定しなければならないことが明らかになりました。
(例)
「皆勤手当は、…業務を円滑に進めるには実際に出勤する…(従業員)を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解される」(ハマキョウレックス事件 平成30.6.1最高裁)ため、正社員に対しては支給される「皆勤手当を有期雇用労働者に対して支給しないことは不合理」とされました。
均等待遇(パート・有期)
パート同様に、有期雇用労働者について、
「①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同一である場合」に「均等待遇」の確保を義務化。
正社員と有期雇用労働者との間で、
「業務の内容とその業務に伴う責任の程度」、そしてそれら「業務の内容と責任の程度と出向・転勤・部署替えなど配置の変更の範囲」が、当該事業所における慣行その他の事情からみて、「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において同一」であると見込まれる場合、
「賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について」、差別的取扱いをしてはならなくなりました。(パートは既定)
(例)
正社員と有期雇用労働者とで、
「仕事の内容が同一、転勤はどちらも無し、仕事でミスをしたら同一のペナルティを科される」ということなら、「賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について」、全く同じにしなければならない(均等待遇)、ということです。
なお、ペナルティに相違がある場合などは均等待遇にはならず、上記「1.」の通り、「それぞれの待遇ごとに当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき(均衡待遇)」となります。
派遣における均等・均衡待遇
派遣労働者について、
「①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上など)を満たす労使協定による待遇のいずれか」の確保を義務化。
派遣労働者に関しては、派遣先の正社員との間で、
①上記「1、2」と同様に、派遣先の労働者との「均等・均衡待遇」を原則としますが、
「派遣先が変わると賃金が下がる」ような事態を避けるため、
②派遣元事業主と労働者の過半数代表者との間で、以下の要件を満たす「労使協定」を結び、それによって待遇を決定してもよいことになっています。
- 派遣労働者が従事する業務の一般的な(厚生労働省が決定する)平均的賃金額以上の賃金額となるもの
- 派遣労働者の職務内容・成果・意欲・能力・経験等が上がった場合に賃金が改善されるもの
- 派遣労働者の職務内容・成果・意欲・能力・経験等を公正に評価して賃金を決定すること
- 派遣元事業主の通常の労働者(派遣労働者を除く)との間に、不合理な相違がない待遇の決定方法(賃金を除く)
- 派遣労働者に対して、段階的・体系的な教育訓練を実施すること
ただし、労使協定の内容を遵守しなかったり、公正な評価に取り組んでいない場合には、原則通り「派遣先との均等・均衡待遇」が適用されることに注意が必要です。
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「労使協定」方式では、「労使の協定を締結する必要」がありますので、内容について、「労使双方の合意が必要」ということになります。
このことは、すなわち、「労働者の過半数代表者が、派遣労働者の賃金その他の待遇の決定に関与する権限を持つ」ということになります。
さて、「派遣労働者が多数を占める『派遣専業』事業者」など、「過半数代表者に、派遣労働者の利益代表者」が選ばれるような場合は、「派遣先との均等・均衡待遇」と同等以上と考えられる待遇とならない限り、「労使協定が結ばれない可能性」があります。
労使協定が結ばれない場合は、「派遣先との均等・均衡待遇」方式が適用されることになりますので、この場合、「派遣先との均等・均衡待遇」が「最低ライン」ということになります。
ところで、「派遣先との均等・均衡待遇」方式では、派遣先にとっては、「直接雇用と同様の人件費」となることが予想されます。むしろ、派遣元の事務処理費や利益分が派遣料金に上乗せされる分、高くつくかもしれません。
このことは、派遣先にとって、労働者派遣を受けるメリットが少なくなることを意味します。
↓
というわけで、「働き方改革関連法」の改正の細部は(平成30年9月16日現在)まだはっきりしないところもありますが、
少なくとも派遣事業者の方々は、「働き方改革関連法」の「派遣事業への同一労働同一賃金の適用」が始まる「令和2年4月1日」までに、
- 派遣先に対して、「令和2年4月1日以降の労働者派遣の受け入れの継続の意思」を打診し、
- 意思がある場合には、「派遣先の比較対象労働者の待遇に関する情報」を求め、
- 労使双方に「労使協定方式にしたい」との意思がある場合には、「労使協定」の内容のすりあわせを行い、協定を締結して労働者に内容を周知し、
- 「就業規則」に新たな賃金制度についての改定を施し、
- 「過半数代表者」に就業規則の変更についての「意見聴取」を行い、
- 管轄する「労働基準監督署」に「就業規則」の変更の届け出及び労働者への周知を行う
ことが必要になるかと思います。
改正法の施行前に締結された労働者派遣契約であっても、
派遣先は、派遣元に対し、施行日以前に、派遣労働者が従事する業務ごとに、「比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報」を提供しなければなりません。
また、派遣元事業主も同様に、派遣労働者が「協定対象労働者であるか否か」の別を派遣先に通知しなければなりません。
ガイドライン
これらについての「ガイドライン」を整備。
説明義務
パート・有期・派遣労働者について、正規との
「待遇差の内容・理由等に関する説明」を義務化。
雇入れ時(パート・有期)
- 特定事項(昇給・退職金・賞与)を文書の交付等によって明示義務
- 改正後8-13条の「待遇の内容等」に関する説明義務
求めに応じ(パート・有期)
- 待遇の「相違の内容・理由」、改正後6-13条の待遇決定をするに当たっての「考慮事項」に関する説明義務
- 説明を求めた場合の「不利益取扱い禁止」
派遣労働者に対しても
- 上記「雇入れ時・求めに応じ」と同様の義務
- 説明を求めた場合の「不利益取扱い禁止」
履行確保
これらについて、行政による履行確保措置・行政ADRを整備。
- 行政による「報告徴収・助言・指導・勧告・公表」等の規定
- 待遇に関する個別労働紛争につき、裁判によらず迅速に解決するための「調停」の制度を規定(パートは既定)
手っ取り早い解決策
非正規をなくすことです。全員、「正社員」にします。パートはフルタイムにし、派遣社員は自社で雇い、有期雇用は無期雇用にします。
しかし、それでもなお、「パートや派遣で働きたい」方がいる場合は、やむを得ません。
その場合、パートの労働条件は、正規と全く同じ基準で決定するようにします。また、派遣労働者の労働条件は、「労使協定方式」で決定するようにします。
参考
ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日最高裁判決)
有期労働契約を結ぶトラック運転手(契約社員)が、正社員との賃金格差につき、労働契約法20条(不合理な待遇差の禁止)に違反しているとして、不法行為に基づき差額賃金分の損害賠償を求めた事件。
正社員については、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるが、契約社員については、予定されていなかった。
最高裁は、「労働契約法20条の規定は、私法上の効力を有し、有期労働契約のうち、同条に違反する労働条件の相違をもうける部分は無効となる。」、
「契約社員と正社員とで異なる就業規則が適用されることにより生じた労働条件の相違は、期間の定めがあることにより相違している」とし、
「皆勤手当・無事故手当・特殊作業手当・給食手当・通勤手当」について、差額賃金分の支払いを命じた。
長澤運輸事件(平成30年6月1日最高裁判決)
定年退職後に有期労働契約を結ぶ乗務員(嘱託社員)が、定年前の正社員との賃金格差につき、労働契約法20条(不合理な待遇差の禁止)に違反しているとして、不法行為に基づき差額賃金分の損害賠償を求めた事件。
嘱託社員は、正社員との間に、業務の内容・責任の程度に違いは無く、正社員と同様に、勤務場所・担当業務を変更されることが予定されていた。
賃金格差は、「嘱託社員規則」と「従業員規則」の規定の違いから生じていた。
なお、嘱託社員は、退職金を受け、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が始まるまでの間、「調整給」の支給を受け、賃金(年収)は、定年退職前の79%程度となることが想定され、実際に76~80%となっていた。
最高裁は、「高年齢雇用確保法により、60才を超える高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており、継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要がある」、
「定年退職後の継続雇用においては、職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われている」、
「会社は、正社員との賃金の差額を縮める努力をした」、
「退職前より2割前後減額されたことは、直ちに不合理とは言えない」、
「有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、労働契約法20条にいう『その他の事情』として考慮される事情に当たる」、
「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得、そのような事情も不合理か否かの判断に当たり考慮されることになる」とし、
「精勤手当・時間外手当」についてのみ、差額賃金分の支払いを命じた。